猫丸邸騒動記

猫よりも 猫らしくとや 猫の道

流れ島流離譚 8

 
 様々の蔦の葉で彩られた門をくぐるなり、シマナガシが振り向くと、右手を胸のあたりに当て、両膝を軽く曲げながら言った。
「ようこそ」
 溢れんばかりの既視感に包まれる。そのバレエの王子か道化者のようなポーズといい、その台詞といい。
「次の世界へ、ですか?」
 いよいよこいつも鼻侯爵と同じ「ある種の装置」に違いないぞという確信に武者震いまでしながら尋ねると、シマナガシはぽかんとしている。
「また変なこと言って。ようこそ、ときたら、私の家へ、に決まってるじゃないですか」そしてむやみに何度も深く頷き、「どうも、じっくりお話を聞く必要がありそうですね。ハナチャンとやらについて」と、にやにやする。
 ここがシマナガシの家なのか、と辺りを見回すと、森の中では伸び放題だったのと同種の木々が、やや刈り込まれてちんまりと並んでおり、枝もまばらで明るく見通しが良い。といっても、適当にポキポキ折ってはむしって食べただけかもしれない。剪定されたというよりは、大規模な虫食いのような印象だ。草食性の猫なのだろうか。
 更に奥の方へと目を移すと、背丈ほどの高さの半球が見えた。
 建造物、と言っていいのだろうか。黄緑色のつるりとしたドーム状をしている。カプセルのようなテントのような物体だが、ここまで大きくなければ、木の実や虫の卵に見えたに違いない外観である。
「これが、家なんですか?」
「ふふふふふ、そうですよ」
 シマナガシは自慢げに先をゆくと、ドームの前で額に手を当て、
「にゃんだら・ぷー!」
 と、急に猫背を伸ばして珍妙な呪文を唱えた。
 すると驚くことに、継ぎ目などないように見えたなめらかな半球の一部が両側に開き、入り口が出現するではないか。
「この間発明した声紋認識キーなんですよ、さあどうぞ」
 シマナガシに促されるまま中へ入る。子供の頃に絵本や雑誌などで見たSF的「未来の家」の再現そのものである。こんなものを作れるのもすごいが、本当に作れるならば、あの懐中電灯のいたずらとの落差をどう受け止めたらいいのか、一歩歩くごとに謎が三つくらいは浮かんでくる。
 我々の身長ほどを半径とする半球であるから、シマナガシの家としては少々小さすぎると感じてはいたのだが、果たしてそこには地下へ続く階段が現れたのだった。
 
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