流れ島流離譚 1
島流しにしてくれよう、それが言うので望むところだと私も応じた。
早まったかとすぐ後に思ったが、すぐだろうが三日後だろうが後にまわっては手遅れであるし、島というものが好きなのだからどうもあまりひどい目に遭う気がしない。
ふふふふふ、と不気味な笑い声が聞こえてきてあたりが暗くなった。
気づけば知らない風景が広がっていた、というのを正直、予測していたのだが、実際には暗闇がずいぶんと長く続いた。時々、あれの笑い声が聞こえる気がしたが、空耳なのかどうなのか、もはやわかりはしない。仕方がないので来し方を振り返ることにした。いったいどういうわけでこんなことになったのか。
どう考えても不可解な存在に遭遇したのは人生で三度めくらいだ。今回は別に何のきっかけも前触れもなかった。昼寝をしていたらそいつが私を起こしたのだ。久しぶりだなとどこかで声がした。見えないけれど何かがいるとすぐにわかった。幽霊だとか妖怪だとかを普通の意味では信じないが、実際目に見えないものがすぐそこにいると確信できるのだから、私がおかしいか、世界がおかしいか、どちらかまたは両方なのは間違いない。
久しぶりもなにもこんなものに出会ったことはないぞと思っていると、果たしてそうかなと声が聞こえる。
こいつ何者だ、と思えば、そうだな、神とでも名乗っておこうかな。昼寝の妖精さんでもいいんだがな、と声。
神などと名乗るやつは偽物にせよ本物にせよろくなものではない。が、昼寝の妖精がそれよりましかどうかも考えものだ。だいたいなぜ妖精が昼寝から叩き起こすというのだろう。
何を言う、起こさなければ寝たままで妖精さんの存在に気づかないくせに……と、声が聞こえてきたのだが、この辺りでうるさくなってきて、私はむやみに大きな声で歌を歌って声を掻き消した。どうもあやつは黙ったようなので歌うのをやめれば、ひどい歌だな、と一言。余計なお世話だ静かにしてくれ、と思うと、そんなに静かなところに行きたいか、では島流しにしてくれよう、ときた。簡単に言えばこんな経緯だ。
そうこうするうち、視界がだんだん明るくなり、波の音など聞こえてきた。そろそろ島につくのかもしれない。